吉野杉の精油は、アトラスシダーとは全く異なる素材だ。同じ「杉・シダー」という言葉で括られることが多いが、植物学的にも、香りの構造も、採取の方法も違う。1989年に父Gabriel Moriが初めて吉野を訪れて以来、メゾンはこの精油を使い続けている。

水蒸気蒸留の工程

山本精油工房では、伐採した吉野杉の枝葉と木屑を蒸留釜に入れ、水蒸気を通す。蒸気が精油成分を運び、冷却管を通って液体に戻る。上層に浮いた精油を分離する。一回の蒸留で得られる精油は、原料の重量の約0.5%から0.8%。少ない。だから高い。

吉野杉とアトラスシダーの違い

アトラスシダー(Cedrus atlantica)はモロッコ原産の針葉樹で、精油はセスキテルペン類が主体。乾いた、ウッディで温かい香りを持つ。吉野杉(Cryptomeria japonica)は日本固有種で、精油にはテルピネン-4-オールやカジネンが多く含まれる。より緑がかった、湿った、清涼感のある香り。同じ「木の香り」でも、方向性が全く異なる。

収穫時期と香りの変化

吉野杉の精油は、冬から春にかけての伐採材から採取するものが最も安定している。夏の材は水分が多く、精油の収率が下がる。また、木の樹齢によっても成分比率が変わる。山本精油工房では、樹齢30年以上の木から採取した材を優先して使っている。毎年、Célesteはサンプルを受け取り、前年との比較を行う。

フレグランスへの応用

吉野杉精油をフレグランスに使う際の課題は、その青みと揮発性の高さにある。トップノートとして機能するが、単独では持続しない。Gabrielが1989年に作った「Yoshino」では、ヒノキと苔のアブソリュートを組み合わせることで、精油の青みを支え、持続性を補った。現在もその構造は変わっていない。

吉野杉の精油は、毎年少しずつ違う。それがこの素材の面白さであり、扱いの難しさでもある。Obsidian Cedar Gladeは、その変化を記録し続けている。